東北で出会った松本竣介、舟越保武、佐藤忠良

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美術が好きだ。会社員時代、出張でいろいろな都市に行くと、時間があれば美術館に行くのが楽しみだった。東日本大震災後、東北を訪れる機会が増え、自然と宮城県美術館や岩手県立美術館で過ごす時間も増えた。

そんな中で出会ったのが、宮城県に縁のある佐藤忠良と、盛岡に縁のある松本竣介、舟越保武。ブロンズの彫刻家、画家、大理石の彫刻家とジャンルは少しずつ違うが、彼らの作品に共通して存在するのは、透き通った透明感、良心や愛情、そして都会の空気だ。それは、盛岡や仙台という街が持つ魅力そのものの気がする。

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宮城県美術館の中庭。青葉城の名残をとどめた小高い山の麓にある。(2012年9月)

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シャガール展をやっていた岩手県美術館(2013年4月)

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盛岡駅の西側には雫石川が流れ、その向こうに小高い山が連なっている。お椀を伏せたような山が多くて、いつもその光景に見とれる。北西には岩手山がそびえていて、その手前に小岩井農場の森がある。このナナカマドみたいな樹木の名前がちっとも覚えられないが、秋の岩手ではよく見かける。(2013年9月)

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岩手県美術館の周りはこんな感じ。冬は吹きさらしでとても寒いことだろう。

岩手県美術館で一番好きなのは、松本竣介と舟越保武の常設展示。舟越保武の大理石やブロンズの彫刻と、数十点の松本竣介の作品が共存するゆったりとした空間は、広々とした土地に建つこの美術館ならではの魅力だと思う。

ちょうどこの頃岩手県立美術館で入手した松本竣介の本を、ようやく読み終えたところ。

青い絵具の匂い

中野淳という一人の画家の目を通して、松本竣介というやはり一人の人、画家の生き方を丹念に綴っている。中野さんは松本竣介の本を書くにあたって、「あなた自身のことを半分は書きなさい」と言われたそうだが、彼自身が接した松本竣介や、松本竣介の友人画家たち、彼らとのやりとり、自身の生活を丹念に辿ることによって、松本竣介が生きた時代を鮮やかに蘇らせている。

太平洋戦争の最中、そして戦後、彼やその周辺の画家、著者をはじめとする画学生たちがどのような生活を送っていたのか、どのような心持ちで生きていたのか感じることができる本だ。

当たり前のことだけど、画家も人として生きていて、生活があって、時代・社会の中で苦労する。画家を通して太平洋戦争の最中と敗戦後のさまを知る。それはニュース映像や、日米の映画、テレビドラマで観るそれとは違う。美術にはそういう力があると思う。

でも、わたしがこの三人が好きなのは、時代背景とかなくても、時代を超えた美とかパワーとか人としての在り方みたいなものを感じるからだ。松本竣介の絵のように生きたいと思う。