「たろう観光ホテル」で

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これまで何度か通ったものの、田老はきちんと立ち寄ることがなかった場所です。テレビで何度も目にした「たろう観光ホテル」を見るたびに、いつかきちんと訪れたいと思っていました。

今回の訪問で、初めて「たろう観光ホテル」に立ち寄ることができました。赤い鉄骨だけが残り、中がすっぽりと抜けている1階と2階部分。6階にのぼり、窓に広がる風景を見ながら、まさに津波が押し寄せたときのビデオを観て、防災の意識を高めるツアーが行われていると聞いていたのでそれに参加したかったのですが、今はホテルが鉄柵で囲まれ、中に入ることができません。隣に、たろう観光ホテル新オープンの準備室があり、訪ねてみるとホテルの社長、松本さんがいらっしゃいました。テレビで何度も目にした方です。

あの日、地震のあと松本さんは従業員を避難させ、ご自分は予約のお客さまの対応のためにホテルに残って6階にいらっしゃったそうです。それまでの訓練で、津波の様子は撮影しておくのが習慣だったため、あの日もカメラを回していました。気づくと海面の高さがぐっと下がり、その後数十秒で、半島をぐるっとまわって大きな津波が押し寄せる。ビデオの中で、目の前を津波警報を知らせる消防車が走っていく。あの消防車は津波を逃れたのだろうか・・・。松本さんが、下の通りにいるであろう人に、「津波だぞ、早く逃げろ」と叫んでいる声が何度も響く。そしてすぐに、津波は松本さんのすぐ下、ホテルの3階部分にまで達していた。

田老には10メートルの防潮堤があったが、押し寄せた津波は16メートル。ホテルは、海側よりもむしろ山側のほうがえぐられた。

長さ4分ほどの、すさまじいビデオでした。

たろう観光ホテルは津波遺構として保存が決定され、今は宮古市の管理下にあるとのこと。そのため現在は鉄柵で囲ってあるのでした。そして松本さんは、すぐ近くの高台に新しいホテルを建てることを決心、今年の秋ごろにはオープンするそうです。「たろう庵」というそのホテル、客室13室の素敵なホテルです。防潮堤には様々な意見がありますが、松本さんは、田老では防潮堤があるのが当たり前の生活だったと言います。今後、防潮堤は高さ15メートルほどに建て替えられるそうですが、新しいホテルは高台にあり、海を見渡すことができます。

東北を訪れると、いつも人や食べ物に元気をもらって帰ってきます。この日も、松本さんが淡々とあの日のことを語りながら、「新しいホテルができたらぜひ寄っていって」と明るく話される姿に、東北人の強さ、日本人というか人間の強さを感じました。