ローカルとグローバル。その間で考えたこと

Pocket

Rice field in Hanamaki

北の玉手箱という会社をつくって3年、東北食材の販売を開始して2年半。わたしは仕事をする上で「3年1クール」のリズムが染みついているのですが、ここで一度振り返り、活動の改定をすることにしました。今の気持ちを記しておこうと思います。

「グローバル」が日常だった頃

北の玉手箱を始める前、アメリカの会社で13年間働きました。日本に進出している外資企業はグローバル経営を行っているから、社内では「ミニ・グローバル」が日常。ついのめり込むタイプだから、会社の外に出ても意識をそのまま引きずって、普段生活している中でも意識が国境を超えていることが多かったように思います。

反面、「ローカル」というかコミュニティというか、自分が生きている場所とすごく遠い感じがしていました。地に足が着いていないというか。外でご飯を食べて、「旬の〇〇が入ってますよ」と言われても、何を言われているのかさっぱりわからない。旬は素養みたいなもので、生きている実感じゃなくて知識で覚えるものみたいな感じでした。ある意味、普段の生活の中で意識していないと「ローカル」と接することもできなかったように思います。

「ローカル」との出会い

そんな中で発生した2011年の東日本大震災は、わたしに大きなショックと価値観の崩壊をもたらしました。初めて沿岸部に入ったとき、建物はまだ壊れていたけど、そこで暮らす人たちの食生活は本当に豊かでした。どこへ行っても、何を食べても美味しい。東京よりもずっと美味しい。暮らしの豊かさは、お金やきらびやかな経歴や建物にあるのではなくて、土地の豊かさや、生活を大事にする心がけにあるんだなとかなりショックを受けました。それから1年後にわたしは慣れ親しんだ会社を離れるんだけど、この時の体験がものすごい影響していたんだろうなと思います。だから次の仕事に、対極のローカルである食を選んだんじゃないかと思うのです。

sea weed of Jusanhama
十三浜のわかめ塩蔵
UminekoRamen
八戸のうみねこラーメン

食の魅力は「知」の魅力

食品に関わるのは初めてのことでしたから、最初は本当に手探りの状態でした。とにかく生産者のことを知る、食品とその生産地について知る、どうやって作っているかを知ることから始めましたが、色々な生産者さんの話を伺ううちに、食は知の宝庫なんだなと考えるようになりました。縄文時代、土器の出現により直火調理から煮炊きに調理技術が広がり、食料を保存するために塩漬け、発酵、冷凍と知が進んでいく。この4ヶ月間、大学で栄養学や調理科学を学んで改めて感心するのは、生物学、物理学、化学の世界の現象を古くは縄文時代から人々は活用してきたんですね。食料の保存とはそれほど大事だったということ、そしてそこからイノベーションが生まれたことがよくわかります。

jomon1
「岡本太郎の縄文」展から(所蔵:国学院大学博物館)
jomon2
火焔式土器(新潟県出土、国学院大学博物館)

同時に、都心で便利な生活を享受していると、この知の部分というか、人間本来の生存能力がどんどん衰退していってしまうのではないかと感じています。おそらくそういうことを感じている人たちはたくさんいて、わたしの周りでも意識的に不便な経験を敢えて楽しんでいる人たちが増えているように思います。都心で畑づくり行う、田舎で週末農業を楽しむ、手前味噌を作る、ジャムや漬物など保存食を作るなど。以前はそういうことをしないと生きていけなかったのが、今ではお金を払えばなんでも手に入るから、敢えて意識して行わないとその知識を獲得することができないのですね。

apricot wine
あんず酒。うまく漬かるといいな。
jam2
余ったあんずと甘くなかったプラムがジャムにちょうどいい。

食とローカルとグローバル

さて話は「グローバル」に戻ります。会社員を辞めてから、グローバルとは縁遠い生活を送ってきましたが、13年間超におよぶ経験と記憶は今でも鮮明に自分の中に残っています。そろそろ、今の自分の中に「グローバル」が戻ってきてもいいのではないかと思い、北の玉手箱のサービス内容も見直すことにしました。

立ち上げ当初から、バイリンガルのコミュニケーションがやりたいと思っていましたが、日々の活動に追われてずっと延ばし延ばしにしていました。創業から3年、キリもいいのでここで一旦立ち止まり、ウェブサイトを全面改訂することにしました。また、サービス内容も食材の販売だけでなく、元々専門にしてきたコミュニケーション活動全般に広げることにしました。

余談ですが、今年の4月にInstagramを始めました。体調が悪かったから、文字が多いFacebookを読むのも投稿も面倒だったのと、頚椎ヘルニアだったので本を持っていることもできなかったから、仕方なく暇つぶしに写真投稿サイトであるInstagramを見始めて、そのうちボチボチ投稿を始めました。写真のキャプションはクドクド書く必要もないから英語で入れ始めたら、見も知らない地球の反対側の人たちと何となく繋がり始めて、あぁこういうのがグローバルの面白さだなと実感しています。

そして、食はローカルの極みだけれども、同時にものすごくグローバルなんだなということも実感しています。特に、発酵への興味は世界的に高く、中でも日本は発酵大国としてその知恵がものすごく注目を浴びているのだなと感じます。嬉しいのは、日本酒などの特殊な技術だけでなく、甘酒とか酒粕とかぬか漬けのような普通の生活の中に生きている発酵の知恵が注目されていること。ユネスコで無形文化遺産に指定された和食が、料亭だけのものではなくて、日々の生活に根付くものであってほしいと思うし、そういう生活を送りたいと思っています。

fermented tofu
塩麹漬けの豆腐。チーズのような風味に変わる。
ume
梅の醤油漬け。カリカリ梅もお醤油も美味。