カウンターの向こう側とこちら側

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6月21日は誕生日。誕生日といってもフツーの日常の一断片であり、今年の抱負や決意表明のようなものはさっぱり思い浮かばない。でも、喉元に刺さった魚の小骨のように、ずっと気になって頭から離れないことがある。6月21日は、株式会社 北の玉手箱の設立記念日。今年、5周年を迎えた。

「地域商社」を作りたかった

名刺を出すと、何の会社ですか?と聞かれる。以前は「東北食材の通信販売を行っています」と答えていた。東日本大震災がきっかけで、東北には美味しい食材を都会で働く人向けに上手に加工している作り手がたくさんいることを知り、1軒1軒足を運んで仕入れ交渉をして取引を始めさせてもらった。ひとりオペレーションで2年半頑張ったし、喜んでくれたお客さんも多かったけど、家族に不幸があって、その時にちょっとした人間不信になってしばらく寝込んでしまい、いったん通販事業は休むことにした。

そのまま再開せずに今に至り、時々集中購買的に仕入れたりはしているけど、「北の玉手箱」のウェブサイトやFacebookページが全然更新されないのに時々覗いてくれる人がいるとFacebookがわざわざ教えてくれたりすると、根が真面目なわたしは「あぁ報告するような活動をしていないのに申し訳ないなぁ」と思ってしまい、魚の小骨のようにずっと喉というか頭の隅っこに引っかかっていたのである。

正確に言えば、北の玉手箱には定期的に売上があがるようになり、会社の経営は以前よりずっと安定した。でもそれは当初思い描いていた首都圏のお客様に東北の食材をお届けするという事業じゃないから、なんとなく自分ではスッキリしない気持ちがある。

先日、福島のある地域商社がクラウドファンディングを募集していて、趣旨に賛同したのと「地域商社」というコンセプトに「あぁこれがやりたかったんだ」と思い当たり、出資した。その地域商社は、地域の農産物を加工して商品化するという6次産業の活動をしている。まずは野菜や果物のピクルスが商品化されており、特にイチゴのピクルスは面白いなぁと思う。

Prominent seaweed fishing
三陸の南端、十三浜のワカメ漁。コシのある十三浜ワカメは絶品。

保存の知恵

住んでいる武蔵野市には日本獣医生命科学大学(以前は日本獣医畜産大学)があり、ここ数年、機会を見つけて食品科学関連の講義を受けてきた。そしていつも自分に、「料理が上手いとか下手とか甘ったれてるんじゃないよ」と喝を入れる。農産物や畜肉は、そのままでは食べることができないし(あるいは、美味しく食べることができないし)、すぐ腐ってしまう。それを解決するのが調理という技術で、上手いとか下手とかいう次元じゃなくて、加工しないと生きていけない。その加工の技術を、少なくともわたしの親の世代は身につけていた。

バブル世代のわたしは、お金を払えば何でも解決できると考えていたから、加工や保存が生存の必須技術だなんて考えたこともなかった。そんな考え方が180度変わったのは、東日本大震災を経験したからだ。

会社員を辞めて自分の会社を作ってからは、贅沢もできないから食材を生で買って加工したり保存したりするのが日常になり、喜びにもなった。思うに、人はサバイバルのための根源的な技術を習得することに大きな喜びを感じるように生まれついているのだと思う。今の時期はせっせと梅を漬けている。砂糖の浸透圧で梅エキスが抽出されるのを日々観察するのはとても面白い。果実酒が好きだから、梅、あんず、ブルーベリー、かりんと1年を通じて色々漬けている。眺めて楽しい、飲んで嬉しい。マイヤーレモンという皮の薄いレモンで漬ける塩レモンも最高で、今は一昨年漬けた塩レモンでせっせと野菜の甘酢漬けを作っている。

昨年秋、初めて味噌を仕込んだ。釜石の藤勇さんという味噌屋さんがokatteにしおぎに来てくれて、教えてもらいながら仕込んだのだが、ちょうど7ヶ月経った今、大豆のアミノ酸と米のブドウ糖がメイラード反応をしているのだろうか、階段下の保存食エリアからはみたらし団子っぽい甘辛い香りがする。今は発酵真っただ中だろうから、夏を越して秋に味見をするのが楽しみである。

rhubarb jam
今まで作ったジャムで一番美味しかったのは、八ヶ岳の赤いルバーブで作ったジャム。固い茎が熱を通すとドロッとする。甘みと酸味のバランスが最高。
Preserves
梅、あんず、トマト、ブルーベリー、ルバーブ。初夏から夏は保存食作りが真っ盛り。

フードビジネスのど真ん中を経験する

日々の生活はそんな感じで、せっせと調理・保存に励んでいるが、仕事でも食にどっぷりと浸かっている。昨年の春、友人とそのご主人と食事をご一緒する機会があった。ご主人はミシュランで三つ星を7年連続取得している日本料理のシェフ。数年前からお弁当のビジネスに携わっていて、新たに店舗を展開するということだったので、店長に立候補した。

その頃は通販をやめて食とは離れた仕事をしていたが、やっぱりどうしても食に携わりたい、そしてどうせならフードビジネスのど真ん中を経験したいと強く願っていたのだと思う。販売職・営業職などやったこともないのに、無謀にもよく立候補したものだと思う。大企業で管理職をしていた人が、本当に店舗に立って販売ができるのかと懐疑的だった意見を押し切って新店舗の店長になったが、残念ながらその店舗は今年春にクローズしてしまった。その後エキュート東京で催事を行い大盛況、曲がりなりにも2店舗経験したことで、立地や商品、価格、そして何よりもお客様のニーズに関して自分なりにたくさんの知見を得ることができた。営業の難しさと面白さの両方を日々実感している。

飲食業や流通業は人手不足が深刻だ。営業時間はどんどん伸びるし定休日もない。流通業のアルバイトといえば以前は学生が多かったが、今はおそらく定年退職後であろう熟年層も頻繁に見かけるようになった。時々思う。ある時までカウンターの向こう側でお客様だった人が、カウンターのこちら側に入ることも珍しくなくなるのだろうと。わたしはカウンターの内側に立つようになって、世界がぐっと広がったし、とても面白くなった。今、フードビジネスのど真ん中を経験しているんだろうなと思う。それはとても幸せなことだと思っている。

この経験がいつの日か、北の玉手箱という地域商社の活動に生かされるように。今はそれを願うだけで精一杯だけど、実現可能な目標にできるよう、今やるべきことに励んでいきたい。

oishii plus
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Esaki's authentic lunch boxes
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